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2007年の初日です。(バルゴ06その3)

 

※ ※

 

サウジアラビア沖ペルシア湾上空、6500m。周辺の公海上を航行する船舶を監視していたP-21Aに給油を行うため、クウェート上空より南下してきた航空自衛軍所属KC-767 J”フューリー22”。その機内である。コックピット後方右舷に設けられたブームオペレーター席で大神小百合1等空尉は、

 

「…ふぅ~~…」

 

と溜息を付いた…KC-767J”フューリー22”とP-21A”バルゴ06”のランデブー。KC-767Jの乗員は機長・副操縦士・給油オペレーターの3人。機長は鷲見雛1等空尉、副操縦士の弓梢朋衣3等空尉、給油オペレーターである大神小百合1等空尉の運用に必要な最小限のクルーチームで構成されていた。彼女たちは既にイラク南東部で、イラン国境の哨戒飛行を続けるフライングタイガースのF-15IR及びF-16Eに燃料を提供していた。そしてその残りをバルゴ06に供給しようと言うのだ…予定ではもう帰路に就いていたはずだったのだが、その前にスケジュール外の給油が入ってしまった。 

「…こちら海上自衛軍所属”バルゴ06”です…”フューリー22”聞こえますか?…」

 

そんな音声が大神のヘッドフォンにも届いた…どうやらお客が近くにいるようである。 

「…こちら航空自衛軍所属”フュ-リー22”です。”バルゴ06“、明瞭に聞こえます…」

 

そう答えたのは、副操縦士の弓梢朋衣の声だった。この給油機のクルーもまた女性のみだった。

 「…そちらの左翼後方7時方向、3000mほど後方に占位しています…」 

そんなコックピットとのやり取りを耳にしていた大神は、再び空中給油のルーチンをこなす準備に取り掛かる…先ずは夜間給油に必要な機外の照明灯を点すことにした…。

 

※ ※

 

夜間照明のために照度を落としたP-21A”バルゴ06”コックピット内部…ヘルメットの眼前に装着した4つ目の微光暗視装置によって視界を確保していた。昔のものに比べて光電子増倍管も半分以下の厚みであり、片方の視野を2つで確保し、画像はOLEDスクリーンで一纏めに表示する形式だ。通常の2つ眼に比べて倍近い120度の視野を確保できるのだ。 

「…ここら辺りがランデブーの空域だけれど…」 

副操縦士の燕城寺と、機長の思信は、天井から吊り下げ式のオーバヘッド型HUDを眼前に下ろした。この視野に外部の合成画像が映し出される。 

「…あ、見っけ!!…」 

先に相手の機影を見つけたのは、以外にも左の機長席に座っていた思信だった。筋雲の合間から機影とともに、規則的なフラッシュを繰り返す機外照明が垣間見えた…。 

「…右翼前方…こちらから見て1~2時の方向よ…」 

云うと燕城寺は、 

「…こちら海上自衛軍所属”バルゴ06”です…”フューリー22”聞こえますか?…」 

そういって、航空自衛軍とのKC-767Jに呼びかけ、相手との通信ラインを開いていた…。 

「…こちら”フュ-リー22”です…機外照明からこちらの位置が判りますか?…」

「…ええ、見えています…」 

コースを維持したままのKC-767Jに、P-21Aは少しずつ、横にスライドするようにしながら空中給油機の真後ろに遷移した…。

 

※ ※

 

コックピット直後のRORO(遠隔制御燃料供給)ステーションで、再びHMDを被りなおした大神。ここに遠隔視野システム(RVS)という外部画像センサーからの映像が映し出される。立体的なビジョンで給油の様子を映し出すことが出来る。そこには、そろりそろりと慎重に、後方に進出してくるP-21Aの機体が大写しになっていた…。 

「…指示誘導灯を点灯…」 

こうすることで、相手にもこちらとの相対位置が判るはずだ…。 

「…給油ブーム展開…」

「…ウィーム…」 

尾部に装備されている空中給油の要であるフライングブーム…要するに空飛ぶホース…が、給油ポジションに降りてくる。後は相手の機体がこの真下に来て受油口を開き、そして最後にこちらからフライングブームの中に収容されている給油ブローブを伸ばし、その相手の受油口に挿入して燃料を送り込むことになる…。 

「…相対位置よし…」 

互いの速度と高度が一定して初めて、フライングブームに収められていた給油プローブを伸ばし始める。その操作はコンソールに座った大神が、左右の手でジョイスティックを動かしながら微調整を行う。ブームを風に靡かせながら、風にブームを乗せる作業…そして相手とドッキングさせるのが、フライングブームの給油の作業である。それと真逆になるのが、プローブ&ドローグ方式だ。先端に受け口の付いたホースを伸ばすのだが、これは相手がこの受け口に機体に備わったプローブを差し込む。こっちはただ給油ホースを伸ばして安定飛行するだけだ。目の前に展開される映像は、暗闇にボンヤリと光るP-21Aの機体上部が見えていた。コックピットの機体上部には、空中給油の受油口、空中目標監視用のAIRBOSSと呼ばれる赤外線画像センサー、衛星通信アンテナの各ドームが並んでいたが、機体の上部だけでやたらと起伏のラインが多い飛行機だと思った…レーダーステルス性やら機体表面の気流の流れの乱れなどで、何かしらの不都合が発生しそうだが、そこまでステルス性や機体表面の整流も厳密には求められていないのだろう…それはよりで高度な残存性と機動性を要求される戦闘機などを基準とした話だ…ある意味、戦闘機のような力学的に洗練されたスタイルの対極に位置するのが、この手の旅客機のスタイルだ。 

「…給油プローブ伸長…」 

P-21Aの受油口の扉がぱっくり開いて、その内部に隠されていた受油口のホールが現れた。ホールは赤い光を放つ、OLEDの発光体で縁取られていた。その穴目掛けて慎重に延びていく給油プローブ。旨く差込が出来たところで、赤い光がグリーンに変わった。これはドッキングが成功したことを意味していた。 

「…給油プローブ差込完了。送油開始…」 

大神の仕事の山場は、ここに終わった…。

 

※ ※

 

燕城寺は、HUDに映し出される合成された強化画像を見ながら、ステアリングを握っていた。先ほどまで彼女に夜の光景を見せるため、眼前に掲げていた微光暗視装置は、跳ね上げてしまっていた…。 

「…もう少し、もう少し…後もうちょい…」 

その画像には、KC-767Jの尾部から伸びる給油用フライングブームが映し出され、その胴体下部前部には、相対ポジションを把握するための指示誘導灯が設けられている。この表示灯の中央に位置すれば、グリーンのライトが見える。これを頼りに自機の姿勢微調整するのである。後はこの位置をフライトコントロールのコンピューターに記憶させれば、自動的にこの相対ポジションを維持し続けるが、そのための情報は、画像センサーから齎されたものだ。受油口はキャビンのほぼ真後ろに位置するため、コックピットからは死角になるのだ。 

「…給油プローブが伸びてきた…」 

そのことが映像で判るほど、コクピット上部に仕込まれたカメラが、その位置計測の役割を担う…。他にもP-21Aでは、画像センサーが随所に仕込まれている。外部の状況認識を高めるため死角を減らすために視覚センサーを配したのである。これは旧来の光学式ミサイル警報センサーの代わりになっている。それは機体のノーズ左右及び、後部左右の4箇所。胴体中央下及び、上面に相手の光学式センサーの目を眩ませるレーザージャマーが2箇所。機首下に水平目標索敵用の赤外・可視光を用いた電子光学(EO)センサーがある…。 

「…ゴツン!!、コンコンコン…」 

受油口にプローブが差し込まれた…。 

「…燃料の給油が開始されたみたい…」 

思信が燃料表示を見ながら呟いた。コンソール・ディスプレイに表示されていた燃料ゲージ表示が少しずつ回復している。その間、他愛の無い世間話を空自との間で潰そうとした…。 

「…そちらも災難でしたね…私たちに燃料補給なんて…」

「…いいえ、わたしたちのフライトは、これで終わりですから、それよりあなたたちの方が、これから過重労働になるんでしょう?…」 

その相手の声が思信の耳には、聞き覚えがあった…鷲見雛1等空尉だ。そもそも自衛軍航空部隊の展開先は、クウェートの航空基地であり、そこでは陸海空の分け隔ては無い。 

「…そうでもないですよ。ウンムカスルの上空をフライパスするだけですから…」 

口で言ってみたほど、そう簡単に終わるものでもなかろうとは、思信も予想していたが、それでもミッションは燃料補給分の延長2~3時間程度で交代せざるを得ないと思っていた。既に7時間以上の飛行時間を重ねているからだ…まだ交代のミッション・クルーは、発進準備できていないのかもしれないが、それでもこちらには肉体にも、機械にも物理的な限界がある。休息は是非にも必要だからだ…いくら眠気をサイコミュシステムで、吹き飛ばすことが出来ても、肉体的に蓄積された疲労も、何れはサイコミュの磁気刺激でも吹き飛ばせなくなってしまうだろう…。 

「…こちらのお腹も底を着いたみたいね…」 

ヘッドフォンの向こうで給油オペレーターの大神の呟きが聞こえた…。 

「…給油終了…残燃料72%にまで回復しました…」 

燕城寺が思信に伝えた。コンソールに目線を落とすと確かに燃料ケージの上昇は停止していた。

 

「…ガツン!!…」

 

そんなくぐもった音と振動が機内に響いて、給油プローブが引き抜かれると、 

「…幸運を祈ります…」

 

その一言で”バルゴ06”との交信を締めくくった”フュ-リー22”…

 

「…それではご機嫌よう…」

「…ご機嫌よう…」 

そんな返礼を”フューリー22”に返した思信だったが、変に気取ったものではないにしろ、何だか昔過ごした女子学校時代のような呼吸が甦ってきて面白かった。その後、何事も無かったように,KC-767Jは基地への帰還コースに就き、P-21Aはそのままウンムカスル沖へと針路を向けた…。

 

※ ※

 

P-21A”バルゴ06”がウンムカスル沖上空に進出するのに、それほど時間は掛からなかった…

 

「…桃子、見えてる?、2時の方向…」 

機長の飯田思信1等海尉がコックピットからキャビンの中に居る戦術担当士官の内藤桃子1等海尉を呼び出した…桃子はコンソールのスクリーンに外部画像として転送されていることだろう…。

 

「…ええ、はっきりとね…あれって高度どれくらいかしら?…」 

思信はコックピットの窓の外に、空中にレーザー光のかがり火で、

“SOS” 

のプラズマ化された青紫色の大きな文字群が、夜空の中にあっては一際明るく犇めいていた。それをP-21Aは高度約2000mから右斜め前方に見ていたが、光の文字は上空5~6000mくらいにまで到達しているように思える。吹き抜ける中東の風が運んでくる砂塵なのか、レーザー光のカーテンに埃が吹き抜けていくのが判る…そんなところへ直接機体を晒すようにダイブする気は、さらさら起きなかった…だから言われなくても、”バルゴ06”は遠目に眺めることしか出来ないのである。

 

「…施設周辺のレーダースキャンを開始しますか?…」

「…お願いします…通信士は衛星及びデータリンクを開いてデータ送信準備…この高度で好いから飛行コースはゆったりとお願いね…」

「…通信士、了解です…」

「…コーパイ、了解です…」 

センサーオペレーターの諏訪部麒麟2等海尉、通信担当の吉岡柴2等海曹、副操縦士の燕城寺麻弥2等海尉らに指示を出す桃子。コクピットでP-21Aのハンドリングを担当していたのは燕城寺麻弥2等海尉だ。バーベルのように陸と海の端境で、対になって横たわる核処理施設と淡水化プラントを、機速を300ktまで落としてゆったりと周遊するように旋回飛行する。施設エリアを直接、通過するようにフライパスすると地上からの対空砲火に晒される危険性が付き纏う。 

「…砂嵐が起きてるみたいね…砂の量はそうでもないか…」 

機長席で思信は、ウェザー表示にしているサイドパネルのマルチスクリーンを覗きながら呟いた。その中では気象観測チームからの天気予報と、機首に装備するレーダーで得られた気象画像が重ねあわされている。思信がタッチパネル画面をなぞるまでも無く、内陸部から砂塵を運ぶ貿易風が、ここウンムカスルからアラビア海にまで連なる赤いベクトルで示されていた。P-21Aの機首に装備するJ/APQ-21(V)3は、索敵レーダーであるとともに、ウェザーレーダーの役割も果たす…上空には砂漠からの砂塵を巻き込んだ砂埃が降り注いでいて、どうしても飛行高度をその砂塵が海に吹き降ろす高度より高めに変更せざるを得なかった。ただし吹き込む砂塵の量は、P-21Aのフライトに何ら影響を及ぼすものではなかった(←つくづくご都合主義…)。

 

「…内藤さん…レーダー画像上がりましたけれど…」

「…ありがとう…そのまま赤外線によるスキャンも継続してください…」

「…センサー、了解です…」 

その気象レーダー機能とともに、上空から施設周辺を一度周回しただけで、レーダー電波による施設の合成映像が静止画像のCGで、桃子の目の前にあるミッション・コンソールのスクリーンに表示される。その間約10数秒。描出された模様は、思信もコックピットのサイドパネルで確認する。P-21Aのコックピットのコンソール・スクリーンは、水平儀や機体の姿勢や針路方位といった基本表示(プライマリー・ディスプレイ)用の縦長のカラーコンソールが2面ずつ、パイロット2人分用意されており、中央にエンジンや航法マップなどの付帯情報を表示(セカンダリー・ディスプレイ)する同じ仕様のスクリーンパネルが4面あり、各パイロットのサイドパネルには自由に使える多目的用のマルチスクリーンが一面備わっている。 

「…艦隊へのデータリンク及び、司令部への通信衛星ライン接続完了です…」

「…了解…ライブでのデータ送信開始…」

「…了解です…直ちにデータ送信開始します…」

 

コミュニケーションラインを開いたとの吉岡柴の知らせが桃子の耳に届いた時、溜まらず放っておかれた方が口を開いた…。 

「…桃子ォ~~…あたしにやることは無いのォ?…」

 

とその場の空気を突然、弛緩させるような口調で言い出したのは、音響センサー担当・隼砥教子1等海尉だった。 

「…サイコミュ・バンドでも使ってしっかり目を覚ましてください!!…」

「…あ~ん…さっきの続きしたいなァ~…」

 

子供っぽく駄々を捏ねる隼砥に、桃子はついに堪忍の緒が切れた…。 

「…もぉ!、だったらそのエッチな気分を、さっさとサイコミュで冷ましなさい!!…」

「…うヴ…」

 

桃子を前にして、唇を尖らせて少しだけ拗ねてみせる隼砥だったが、そもそも脳への磁気刺激で眠気を取るサイコミュ・バンドは、単なる覚醒機材だ。サイコミュの由来であるサイコミュニケーション…脳の神経活動を磁気スキャンして、互いの心のやり取りを行う…性能は、まだ実現できていないから、今の時点では完全に名前負けしている。 

「…ふーん、いいもーんだ。桃子が冷たいから、麒麟ちゃんと仲良くしちゃうんだから…」

「…隼砥1尉…」

「…むっ!!…」

 

云いながら隼砥は、隣席の麒麟の右腕にわざとまとわりつく…それに麒麟は少々迷惑顔だったが、それ以上に吉岡柴はむっとした顔をしている。といっても隼砥は、HMDのアイピースを眼前に下ろしながら、スタンバイモードで眠っていたスクリーンを起動させて、即座に赤外線画像センサーからのモニター映像を映し出した。これはレーダー関係のオペレーティングに忙しい麒麟のバックアップ作業に他ならない。はなからそうしてくれれば、こっちも助かるのだが、桃子も桃子で隼砥に指示を出さなかったせいもある。そもそも隼砥が担当するのは、海面下の索敵に使用する音響センサーがメインだが、それはあくまでチームのポジションの話であって、ワンマンもしくは無人運用が基本の空軍の戦闘機とは違って、哨戒機はクルーの結束したチームプレイが要求される。その点は臨機応変に何事もこなしてもらわねばならないのだが…隼砥は、桃子からの指示を待っていたのだが、一向に出してくれないので痺れを切らした隼砥がからかい半分に桃子に自分から言い出した。それは桃子に少しでも構って欲しいという心根に他ならなかった…それでも仕事になれば、弛緩した口調も止めざるを得ない。 

「…赤外線計測画像…地上施設に熱源を帯びたオブジェクト多数…もう既に先客が居たの?…」

 

隼砥はレーダーの情報を補完すべく、機首の下に装備されている電子光学(EO)ターレットを、ターゲット方向に向けて指向した。地上施設側の熱源だけで2~30の目標にカーソルコンテナが重なる。それらは明滅を繰り返していた。こんな状態ではコンピューターも自動的にロックオンモードを継続できない。それは対象が物陰に隠れたり、機体の移動でカメラの死角に入ったりとするからだが、数が予想より大きいことにそう感嘆を漏らす隼砥だったが、熱源は広範囲に散らばっている…このどこかにズームアップすると、その撮影範囲が狭まってしまうことになる。敵を攻撃する照準用にズームアップするわけでもない。ただ状況を把握するためには、広角画像が必要なのだが、今のミッションは対象施設の様子を見下ろす偵察監視飛行なのだ。その任務の性格に基づく倍率を選択しなければならない。 

「…地上施設で爆発的熱放射を確認!…」

「…内部からの爆発かしら?…」

「…よく判らないけれど、尋常じゃない…」

 

そんな会話が隼砥と桃子と思信の間で繰り広げられていた時、新たにP-21Aの索敵センサーは空中目標を確認した…。 

「…11時方向、相対距離25000m、高度600m、予想針路2-8-4、速力約90ktで空中に四機のヘリコプターの編隊を確認。うちの艦載ヘリ部隊みたいですね…」

 

麒麟が云う。緩い左旋回に入っていた機体の傾斜に合わせて、隼砥はそれらに向けて今度は、機体上部にあるAIRBOSSセンサーを左斜め前下方に指向させる。マルチスペクトルの赤外線センサーが首を振り、その視野に目標を取り入れた。対象の詳細な形状が画像認識できるようにフォーカスアップを繰り返す。見慣れたその特異なローターの形状から、SH-60K+だろうと思われた。空中のヘリコプターは味方の護衛艦隊から発進したSH-60K+。他にも海上には、水上目標が大きいもので2つ。”バルゴ06”を中心にした30㎞のエリア内に存在を確認していた。先ほど地上施設の静止画で合成イメージを得たように、逆合成開口モードでCGイメージが合成された。一つは貨物船。前部にブリッジを備え、中央はコンテナや貨物を収容するための2基の門型クレーンが設置されており、甲板はブリッジの前と後部甲板はヘリポートとなっていた。これはヒシザキ所有のテンペスト号。そしてもう一つは、味方の海上自衛軍の汎用護衛艦DD-161たかつき級の一隻であるよいづきの艦影だった…空中目標をサーチすると同時進行で、地上及び水上目標のサーチも同時に行われる。これも電波ビーム発振がコンピューター制御のアクティブ・フェイスド・アレイ・アンテナを持つJ/APQ-21(V)3のなせる業である…。

 

「…空中目標に向け、IFF(敵味方識別)信号、自動送信します…」

「…吉岡2曹、送信状況はどうです?…」

「…伝送レートが若干低下していますけど、ライブ送信中です…」 

桃子の問い掛けに吉岡柴が見るHMDのアイピース内の表示から読み取った…20Mbps伝送レートを確保しているとしていたが、実際上はそれも半分以下に低下していた…ビジー状態によりラインが先細りとのネットワークのコンディションが、数字とグラフィックで示されていた…。 

「…空中目標、SH-60K+スーパー編隊のIFFコード送受信終了…」

吉岡柴のコンソール・スクリーンにCGマップをベースにした戦術状況ウィンドウ画面では、IFFでの照合結果によって味方と認識されたSH-60K+には、飛行物体を示す三角に、味方の青いサークルで囲まれたシンボルとコードが割り振られて表示されていた。そのマップに新しくターゲットとして知覚された熱源が加えられていく…それに新しくIFFの敵味方識別の交信が終わって、P-21AとSH-60K+の編隊が交差する…ロックオンしていたSH-60K+のオートトレースは、P-21Aの機体上部のAIRBOSSセンサーから機首下部の電子光学ターレットへ自動的に引き継がれる。そのうちウンムカスル上空に到達したSH-60K+の一機が核廃棄物処理施設上空に進出する…。 

「…SH-60K+、ウンムカスル上空に到達…スーパー61降下開始…」 

地上施設の模様をスクリーンで監視していた麒麟が実況した。ホバリングしている機体から、細かな熱源がばらばらと放たれた。降下した陸上自衛軍の機械化歩兵・サバイバルギアの兵士たちだ。 

「…陸自の機械化歩兵のお出ましね…」

「…地上の熱源間に交戦を確認…」 

飛び出した熱源。それらが展開した時に、地上に元から存在していた標的が対峙する…後続機がホバリングを開始するかしないかの時、大きくブレイクしたSH-60K+は、左翼から鋭い熱の一線を走らせる。ミサイルを放ったのだ。それを地上の敵目掛けて放った模様だが、 

「…空中でミサイル爆発!!…」 

迎撃されてしまった。そしてミサイルを放ったSH-60K+は、そのまま地上の核施設への建屋を掠めるようにして施設上空を横断した。 

「…早速、派手にやり始めたわね…」 

地上の様子をいぶかしむ思信。これに桃子も応じた…。 

「…吉岡2曹、艦隊司令部への通信用意…エリア全域へのデータ配信を進言…」

「…了解なんですけど…」 

桃子に命令された吉岡柴は、早速指示を実行しようと思っていたのだが、HMDのアイピースには通信ラインの一方通行の状況が表示されていた…著しいネットワークの発達で、やり取りするデータ量は格段に増えているのだが、表示装置などに関して言えば、取り立てて大きな変化は無く、相変わらずなのだ。以前に比べて変わったのは、乗員の方だ。彼らは骨伝導ヘッドフォンに骨伝導マイクの付いたインカムに加えて、片眼鏡式シースルーHMDのアイピースを掲げた状態で、従前のコンソールに向かう姿が多くなった。インカムによる音声入力が可能になったが、これは音声をリアルタイムで文章化するボイスチャットや、同じくリアルタイムの自動翻訳には欠かせないが、機械とのやり取りに人間同士の話し言葉が介在すると、余計な混乱を現場に招くことから、それほど利用は進んでいない。このように些か飽和状態にあるデータを個人レベルで租借しようというコンセプトの元に、ウェアラブル式の携帯情報端末の普及を推し進めた。しかしその携帯コムツールが一つのテクノロジーの終局であり、爛熟期であった。その次のステップとしては、当然、情報機器そのものを、脳に新しい人工感覚器として直接コネクトさせる電脳化を含めた埋め込み方式(インプランタブル)になるのだが、電脳化技術の課題や、社会的な制約が大きく、中々思うように進展していない。 

「…了解だけれど何?…」

「…送信は可能ですが、艦隊司令部側の通信ラインがうまく開きません…」

「…それってどういう?…」

「…さっきからずっとだったんですけど、受信側の応答がないんです…」

「…電波妨害(ジャミング)を受けている?…」 

桃子が電子戦(ESM)のタスクをスクリーン画面に呼び出していた時、隼砥は試しに機体上部の画像センサーの首を振らせてみた…夜空にはアラビアンナイトの星の縮図が背景として横たわっていた。AIRBOSSセンサーは、元来、高硬度から敵国領内から発射される弾道ミサイルの熱源を探知することを目的とする高感度の赤外線画像センサーだったが、旧来の2波長赤外線センサーからP-21Aのそれは幾分バージョンアップされ、高感度可視光カメラとミサイルのレーザー追尾センサーが組み込まれている。索敵範囲は時刻や大気状況によるが、1~200㎞内外とされているが、大気汚染物質、火山の噴煙、オーロラや、稲光に伴うスプライトと呼ばれる発光現象を探知できる。そんなAIRBOSSセンサーが機体の真後ろ上方に首を振った時、斜め上方にうっすらとした帯を確認した…それは大気中を漂う汚染物質の帯のようでもあるが、規則的に棚引く様は航空機のブラスト・コントレイルに似ていたし、何よりP-21Aの真上に流れるのは可笑しかった…つまり人工的に思えた…。

「…機体の6時方向に特異な反応…」

「…特異なって?…」

「…私たちの機体の真上に棚引く帯の様子が人工的に見えるの…」

「…その根元をズームアップして見て!!…」

「…高度4000m付近に見えた!!…」 

隼砥はスクリーンに映し出していたブラストの帯を指先でなぞりながら、AIRBOSSの焦点にその根元を辿らせる…高度差で云ってP-21Aの2000m上方に見えたのは、前緑のV字と後緑のW字が組み合わさった見慣れたシルエットだった。QF-45シリーズである。航空自衛軍も国産機の開発の遅れからUF-1として導入した経緯がある。ターゲットを改めてイメージ処理で認識したコンピューターは、カーソルコンテナを重ね合わせた…遮るもののほとんど無い空中で、この距離に近づかれても気づかなかったとは、ほとんど致命的だ。相手がその気なら、こちらは当に殺られている…。 

「…QF-45タイプみたいですけど…」

「…あれって味方の奴?…」

「…IFF信号には反応無し…」

「…この距離でも見え辛いなんて…米軍のRタイプなのかしら?…」 

思信の問い掛けに吉岡柴が否定し、桃子が機種の同定しようとする。コンピューターが画像から種別を認識できても、それはグループ分けであって詳細なタイプまでは判らないことが多い。桃子が云った”…Rタイプ…”ことQF/V-45Rの”R”は、”Reconnaissance(偵察)”のRであり、無人偵察機として、そのステルス性の追求をより深めることで、サバイバビリティの強化を図っている。機体形状はベースタイプと基本形は同じままだが、電波反射を増やす可動翼の使用を減らすために、翼の断面をアクチュエーターの力で内側から変形させ、機体を操縦する断面形状変形翼を採用。ただしこの手法は、急激な機動は出来ないので、緩やかな遷移飛行など使用場面は限られる。逆位相電波を用いるアクティブ・ステルスは、電源確保の問題から採用は見送られている。可視光に関しては、機体全体に薄膜のOLEDによる表示アレイと、微細なカメラによる撮像アレイからなる電子光学迷彩を施している。ここに周囲の景色を映し出して、周りの風景に溶け込むのである。エンジンには、エンジンノイズとは逆位相の騒音を合成して流すことで、ノイズの低減を図っているほか、赤外線に関して、排気ノズル部分に大きな切れ込みを作ることでエンジンの排気に冷たい外気を取り込んで温度を下げる工夫をしているが、それに加えて気体に液体窒素のタンクを内蔵し、その窒素ガスを混ぜることで、さらに排気温度の低下を企図している。自衛軍が装備していない最新のRタイプはあまり表に出ることが無い。ここで得た排気の熱パターンは今後の参照データになるだろう…。

 「…機体6時方向下部にも同じく無人機です!…」 

隼砥は機首下部に装備された索敵ターレットも同じように機体の後方に向ける。上と同じように高度さのあるP-21Aと平行する熱の帯があって、その帯の発生の元を辿ると、今度はそこにコイのような機体…QR-21モーフ…がいたのだった。正面形状はY字断面の機体。中央に逆三角形の空気取り入れ口が大きく口を開け、機体の主翼は逆W字のガルウィング。これは折畳みの主翼である。QF/V-45Rと同じようにこちらからのIFF信号には応答が無い…種別上は無人戦闘攻撃機(UCAV)に分類されるQR-21モーフだが、QF/V-45Rに比べれば小型で光学迷彩などの徹底したステルス能力は付与されていないが、機体形状は無人機としてはベーシックな全翼機である。この機体が特別なのは、潜水艦の垂直ランチャーに格納され、水中から発射可能なように設計されていることだ。回収も水上に着水して潜水艦の発射管に引きずり込まれることになるが、主翼は折りたたまれ、機体は窒素ガスを用いて防水シールドを展開するが、そのガスボンベからの冷たい窒素ガスを排気に混ぜて、温度を下げるのはQF/V-45Rと同じ理屈である…。

 「…監視飛行を行うあたしたちへの監視…」

 桃子は呻いた。彼らが何をしていたのか?…それはP-21Aを監視することともう一つ。こちらからの電波を盗み取ること。電波収集任務である。例えばQF/V-45Rは、バルゴ06の上方に遷移していたが、これはP-21Aの衛星通信アンテナが機体上部にあるためで、逆に6時下方に居たQR-21モーフは、地上や海上に居る味方へのデータリンク用アンテナがあった。そこから送信されるデータを吸い取るには、ちょうど都合のいいポジションにいたわけである。 

「…それで…どうするの、桃子?…」

「……」 

思信に問われる桃子。この対抗措置をとろうにも、このP-21Aは銃やミサイルなどの火器類に関して非武装だった。しかしこのバルゴ06の現場指揮官である桃子は、この限られた状況中でも、これからの対応策を見出さなければならない…。 

「…無人機に対して機外灯を使って発光モールスで退去勧告よ。これで遠隔操作なら判るはず…それでも従わない場合は電波ジャミングでスタンドアローン(孤立)にさせる…」

「…それで?…」

「…相手の出方を見るわ…」 

思信の問いに桃子は言った…発光信号に関しては、機外照明を操作するスイッチはコックピットに集中しているので、思信や燕城寺がそれを担うことになる。しかし機外灯を何度明滅させても相手の行動は変わらなかった…。こちらからジャミングを仕掛けることで、相手の無人戦闘機も後方司令部との連絡を止めることが出来るが、しかしこちらも味方との連絡が不可能になってしまう。苦肉の策だった…出たとこ勝負なんて…桃子は内心、苦手だった。まぁ何事もそうだが、往々にして戦場での偶発的な出会い頭の会戦で、出来ることが限られてしまう。そこで要求されるのは、その突発自体に咄嗟に対処することの出来る瞬発力に似た決断だ。こればっかりは個々人の生来の資質、持って生まれた感性に因るのかもしれない。その点では桃子は、あまり得意ではない。だからこういう場面での指揮官は、思信や諏訪部の方が適任だと思う。 

「…外部状況に反応無し…これじゃ埒が明かないわ…」

「…電子妨害措置を許可します…」

「…ジャミング開始…」 

その妨害電波が発せられてから、相手の挙動に明確な変化が見られた…。 

「…あれ?…こっちに向かってくる?…」 

隼砥が云った。機体上部のAIRBOSSと、機首下部の索敵ターレットは互いに、上下に居る無人機の動向に目を光らせていたが、その画像の中でジャミングを仕掛けた始めた途端、上と下で一定の距離を保っていたQF/V-45RとQR-21の2機の無人機が画面一杯に迫ってくる…それはP-21Aをまるで上下からサンドイッチするようでもある。 

「…挟みこまれちゃった…」 

隼砥が云うまでもなく、その距離は見る見る縮まり、ほんの10から数mほどのぎりぎりの差で肉薄しているのである。機体の下に居たQR-21は、P-21Aにまさにコバンザメするように向かってきたし、上のQF/V-45Rは大胆にもアンテナドームの直後、P-21Aの垂直尾翼の直前にまで舞い降りてきた…。 

「…これじゃ身動きが取れない…私たちを脅してるの?…」 

これでは自分たちに従えと暗に言っているようなものだ。無人戦闘機のくせに味な真似をしてくれると思った…。 

「…まるで誰かに操られているのかしら?…」

「…ジャミングは利いているはずだから理屈では内部のコンピューター制御よ…」

「…だとしたらスタンドアローンの状態で、ここまで出来るならお利巧な制御ソフトなのね…」 

そんな緊迫したやり取りが隼砥や、桃子と思信の間で行われていたが、 

「…この後、どうするんですかぁ?…」 

そう燕城寺が次の行動を質す…暢気に事を眺めていて良い状況ではない…。 

「…機体の急激な機動も良いけれど、機体に傷つけられたら、こっちも危なくなるし…そぉねぇ…相手にレーダージャミングを掛けたまま、レーザージャミングで無人機の視覚センサーを眼晦ましして、その瞬間に逃げましょう…」 

燕城寺の問いに応えて桃子がそのオプションを提案した。幸いにもP-21Aには、その選択肢を実行するために打って付けのレーザー光を使う光波式妨害装置(レーザージャマー)・ターレットが機体の上部と下部に備わっていた。これは弱いレーザービームで相手ミサイルの電子光学シーカーを焼切る…までは行かないが目潰しするのが主な目的だった。これらによって機体を中心に上下の球状空間のほぼ全域をカバーするが、これを無人機の視覚センサーに向けて発射するのである。視覚センサーだけでなく、相手が周囲の状況把握に使用するレーダーを妨害すれば、電波と視覚を塞ぐことができる。ちなみに大出力の航空機搭載用の攻撃用レーザー砲もあるが、P-21Aにはそれだけの機内容積はあっても電源が無いし、システムを積むには、既存の哨戒戦闘システムを全て降ろさざるを得ない…。

「…レーザービームで相手のモノアイを潰すのは良いけど、下の無人機は超低空で水面を掠めた方が、離れてくれるんじゃないかしら…」

 

とは麒麟…だった。 

「…それより曳航デコイはどうですか?…」

 

吉岡柴も麒麟につられるようにして議論に加わっていた。P-21Aには光ファイバー曳航式のデコイ(囮)が装備されており、これは先端のデコイ本体からレーザージャマーと欺瞞電波を発射するものだが、自機からある程度、距離を置いて使用するものであるため、今のように相手がこちらの内懐深くまで入っていると、制限された運用しか出来ない。 

「…こんなに近寄られたらデコイじゃ手出し出来ないわ…」

「…じゃランチャーから物を落とせば良いんじゃないですか?…うまく当たるかもしれないし、パラシュートが絡まるかもしれないし…」

「…躱されたらどうするのよ?…」

「…だから目潰しのレーザー攻撃をするんじゃないですか?…」

「…下の奴は良いとして、上にいる機体は如何するのよ?…」

「…あ…」 

そんな麒麟と吉岡柴の喧々諤々の議論に思信が終止符を打った…。

 

「…大丈夫よ。あたしに考えがあるから…」

「…思信…」

 

力強く言ってくれた思信だったが、それでも桃子は不安だった。自分が投じた一石なのに、想像以上に広がってしまった波紋に、自分自身で明快に答えを出せなかった。でも彼女には、今は思信を頼りにするしかないのだ。 

「…上にいる無人機には、目潰しのレーザーを照射したら、すぐに機体をスライド移動させるの…多分、相手はQF/V-45Rだから視覚センサーが機首の下だけじゃなく、翼と胴体にもついているでしょう。それにも次々と命中させなきゃだめよ…前部の視覚センサーを目潰ししている間にこっちは逃げ出すの…下の無人機には、レーザーショットと物量投下の組み合わせを基本に臨機応変に出たとこ勝負で行きましょう…」

 

思信の語り口調は力強い一言だったが、中身はただ桃子の提案にパイロットからの視点を加味しただけだった。それでもこういう決断をしてみせる瞬間の思信は、桃子の信頼感を通り越して惚れ直させるに十分な姿に見えた。 

「…この難局を乗り切るために、みんなの命を私に預けて…」

「…思信さま…」

 

この思信の一言に陶然となる燕城寺や一同…それに負けじと桃子も続ける…。

 

「…この勝負はタイミングが全てだから、みんなの呼吸を合わせるのが一番大事なの!!…」

「……」 

桃子の一言にはみんなの反応が心なしか鈍い気がした。戦闘機械をシステマチックに操るには、何より繊細さが要求される。それは肌をときめかせる指先の動きと同じだ。そしてミッションチームとして一丸となって戦う時は、同期した動きが必要だ。それは女同士で肌を重ね合わせる時と同じだった。だからこそ互いに日ごろから肌を重ね合っている自分たちこそ、こういうピンチのときこそ、ここぞの強みを発揮できるのだという自負は、桃子や思信を含めたこの場のクルー全員の共通した認識だった…。

 

「…帰還したら、またみんなで好きなだけエッチなことしましょう…」 

ここぞの一言は、これに限る…チームとしての仲間意識に加えて、肉体的にもエッチで結びついている関係は、そんじゃそこらのものとは一味違うのだ…。

 

「…しましょう…」(←燕城寺)

「…うん…」(←麒麟)

「…私も…先輩といっぱいしたいです…」(←吉岡柴)

「…しよしよ…」(←隼砥)

「…賛成…」(←佃島)

「…了解です…」(←笠置秋)

「…アイ・ショーティ…」(←笠置紀)

「…基地に帰ったら、あなたを寝かせてやらないんだからね…」(←思信) 

と最後を締めくくったのは思信だった…その傍らで燕城寺が思信に、そっと耳打ちした…それを聞いてにんまりと、ほくそ笑む彼女…。

 

「…そう云えば、絶対に生きて帰るって誓わなきゃいけない相手がまだまだ居たわね…」

「…え?…」

「…みんな、ちゃーんと持ってるわよね?…」 

思信の言い草に桃子は一瞬、きょとんとしてしまう。そしてみんなは、胸元からお揃いの小さなロケットのペンダントを取り出して見せた。その中には個々人が慕い女性との卵子を単為生殖技術で掛け合わせたコンボエッグ(受精卵)を使った受胎カプセルが入っていた。これは愛の証であり、絆であるとともに、お守りの意味もあるのだ。絶対に母親になるまで、死なない…生き抜いて見せると言う決意の意味がある…。

 

「…リーダーの桃子は持ってないの?…」

「…そんなわけ…ない…けど…」 

言うと躊躇いがちにだが、桃子も胸元のポケットから、忍ばせていたロケット・ペンダントを取り出していた。桃子が卵子を掛け合わせた相手はもちろん思信だった…。 

「…ちゃんと生きて帰って、この子たちをこの世に産んであげなきゃ…私たちはママになる前に絶対に死ぬわけにはいかないのよ…」

 

言うと、思信はロケットに頬摺りすると、軽く口付けをしてペンダントを胸の中にしまう。他のみんなもそれに倣った仕草をした…これで心の臨戦態勢を整えた一同である…これはまだ見ぬわが子達と将来への彼女たちなりに感じている責務を、具体的に形にしているのだ…。 

「…あのぉー…この受胎カプセルの有効期限って、もうそろそろ終わりのはずですよね?…」

「…そうだったかもしれないわね?…」

「…じゃぁみんなでぇ…」

「…それは後にして!…」

 

燕城寺が受胎カプセルの使用期限が迫っている時限の問題を絡めて、これ以降の展開が終わったはずの思信との会話に、隼砥が加速を掛けようとした時に、桃子が途中で打ち切りの制動を掛けた。そもそも受胎カプセルの保存溶液には、食品の賞味期限ではないが、受胎カプセルの有効期限は半年程度のはずだ。その期限が迫っていたのだ… 

「…みんな気合入れていくわよ!!…」

「…らじゃ!!…」

 

思信と桃子の気合の入った号令に、他のクルーが呼吸を合わせた了解をした…。

 

(続く)
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  1. 2007/01/01(月) 12:48:40|
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