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2007年の初日です。(バルゴ06その1)

謹賀新年、あけましておめでとうございます。本年も何卒、ご指導ご鞭撻のほどお願い申し上げますm(。_。)mということで、新年の初日と言うことで、何か書こうと思ったのですが、ネタが思いつかない…ので、自分が過去に没にした妄想の駄文をアップしてみたいと思います。これは"バルゴ06"というP-21A哨戒機の中の取り留めの無い話です。


※ ※

 

P-21Aは、初期型のP-21の改良型で、運用コスト削減のために、ミッション機器の刷新による自動化の推進と、4発あったエンジンの双発化が施されている。そしてリセプタクルと呼ばれる空中給油装置の受油口がコックピット上部に新設されている。これは哨戒時間を延長するためのもので、燃料消費の激しいジェット哨戒機には必須のツールだが、諸外国の哨戒機では、ドローグ・プローブ式を広く用いているのに対して、P-21Aでは航空自衛軍のKC-767Jの支援を想定していたため、空自が使用するフライングブーム型のものに合わせている。調達数が少ないために、ミッション当たりの任務時間を長くしようという苦肉の策である。それに加えて省力化も進められた。ミッション機器の高度自動化は、従来は5名必要だったオペレータークルーを3名に減らし、そのお陰で乗員数はP-21の11名から、9名に減っている。ただしソノブイ投下などの肉体労働が必要な分野は、まだ自動化が遅れていた。また主翼にぶら下がっていたエンジンが2つ減ったことは、整備コストの削減とともに、その余白に武器の搭載スペースが新しく出来たことを意味する。P-21では旧来のP-3Cオライオン対潜哨戒機に倣って尾部から伸びていたMAD(磁気探知装置)ブームは、P-21Aでは幾分短縮され、その根元にミサイル警戒用の光学センサーが仕込まれた。P-21Aのキャビンは、トイレ以外、原則的にコックピットから最後部のギャレーまで、間仕切りの無い区画なのだが、このバルゴ06では、コックピット、前部オペレーションデッキ、後部キャビンの間に、それぞれはめ込み式の隔壁を設けている。これは特に防音・防湿効果に優れていると同時に、高温環境下にあるイラク派遣で、個々のデッキ・ステーションに隔壁を設けることで保温効果を高めているためだ。昨今の電子機器を多用する兵器システムには、クーラーを作動させて室温を一定させる必要があるのだ。

 

※ ※

 

女性クルーのみで構成された戦う乙女の武装集団が、海の上のDD-164よいづき以外に空にもあった…そのもう一つの処女宮の中…

 

※ ※

 

「…あぁ、また出産祝いかぁ…今月も交際費の出費が嵩むなぁ…」

 鼻の下と上唇の間にペンを銜えながら、一人ぼやいていた(作戦担当用戦術航法士官席の)コンソールに向かっていた内藤桃子1等海尉。そこにコックピットから(機長の)飯田思信1等海尉がキャビンの方にやって来た…機体のコントロールは、燕城寺麻弥と自動操縦に任せて、機内の散策としゃれ込んだわけではないのだけれど、用足しも兼ねた顔出しである…。 

「…どしたの?…」

「…うんん…ちょっとね…ただの指先の運動…折り紙よ…」

 飯田思信の問い掛けに言葉を濁らせた内藤桃子だった…わざわざモニターの電源を落として、筆算計算していたメモ用紙を反射的に織り込んでいた桃子だった。その右の手先は、その場を取り繕うように折鶴を折り始めていた…それが思信の眼には、明らかに奇異な行動に映るのだ…これが突っ込まずにいられようか?…。

 「…だからちょっとどうしたの?…わざわざ折鶴をおっての指先のリハビリってわけじゃないでしょ?…」

 同じ仕草を両方の指先で模倣してみせる思信。その器用さは、彼女の脳内のミラーニューロンと、指先の運動を司る領域の連接の良さを匂わせるものだった。そしてその発達した器用な指先に、桃子は寝床で何度煮え湯を飲まされたことか…いや、それは私的で感覚的なことだ…。

 「…もぉ…交際費の計算よ…」

 思信に詰め寄られた内藤桃子は、しぶしぶ自分がしていたことを言ったが、まだ核心には触れていない。それを口にすれば、また思信からワンパターンの台詞を聞くことを予想できたからだった…。
 「…交際費って何の?…あたし以外の女性との浮気を考えてるのかしら?…」

「…そんなことするわけないでしょ!!…」

 そんな思信の挑発に思わず言葉を真に受けて声を荒げてしまう桃子。その後に”…何時も浮気をするのは、あなたの方じゃない!!…”という台詞を呑み込んだ桃子だったが…それはこの場で触れる類のものではないのは十分に承知している…他のクルーに聞かれてしまうのは、彼女が最も躊躇するところだった。例え自分を含めたクルー全員が、お互いの肌の肌理の細かさまで知り合っている間柄だとしてもである…桃子と思信の2人だけの間の問題に局限されることだからだ…飯田思信はことあるごとに、自分のことを一番に想っていると公言して憚らないし、それを他のクルーも承知しているのだが、ふと不安に…満たされていない自分の心に気づく桃子…そんな貪欲な自分を痛感するのが嫌なだけなのだ。そう、結局は、桃子自身が意固地であること、自分の世界観の狭さを痛感するのだ…未だに思信と同じ視点の広さに立てない桃子は、自分にちょくちょく幻滅するというわけだ…果たして思信の生涯の伴侶に相応しいのか?…よく疑問に思うである。しかし当の思信は、そんなことを気にしている風もないし、逆にそう苦悶する自分のことを、ただ見守っているだけなのだ。その不足部分を他の女と交わることで補っているのかもしれない。完璧主義者ではないし、そうはなれないと桃子自身が自分に言い聞かせても、自意識の裏側では、かくあろうとしなければ、そのモチベーションを保ち続けなければ、思うような結果が伴わないことを自覚しているため、潜在的に無意識から自意識へ完璧を保つようにとのプレッシャーを掛けているのだ…それはプライドという形のもので形容される…。

 「…おほん!、とにかく私の個人的な交際費の計算は、あなたの範疇外でしょ?…」

 一呼吸おいて、桃子は自分の心の規律を正すと、これ以上の相手との会話を終了する意図を台詞に滲ませたのだが…。

 「…なぁに?…やけに邪険にするじゃない?…」

「…あ…」

 そのしなやかな思信の指先が、静かに首筋に触れた…うなじを擽るのだが、思わず艶のある息を漏らしてしまう桃子だった。

 「…そんなにベッドの中と、一緒になるとは想わないでよ…」

 桃子は思信に耳元にささやくように抗議の目線を送る…それを受け取った思信は、切り替えした…。

 「…あたしにはそんな気は毛頭は無いわよ…私生活も、空での仕事もすべて私が主役の人生のストーリーだもの…すべてが一緒なのよ…そしてあなたがその第一のパートナーなのよ?…何時も云ってるでしょう?…」

「……」

 その思信の決め台詞に思わずぽっと顔を赤らめてしまう桃子だった…何度も耳にしているのだが…その度に頬の紅潮が増す気がしていた…。

 「…そんなあたしとの間に隠し事は無しのはずでしょう?…内藤桃子1等海尉…」

「…それは…」

 そのまま思信は、桃子の座る座席の背後ににじり寄ると、上半身をそのまま覆い被せた。後ろから桃子に抱き着いたのだった…。

 「…で、そのあなたの私的交際費の使い道は何なのかしら?…白状しなさい…」

 その思信の繊細な指先が桃子の胸元に降りてくる…。

 「…その…出産…祝い…です…」

「…それで誰にあげるのかしら?…」

「…くにくに…」

「…んぁぁ…藤森…せんせぇ…のとこと…天外艦長と…名取さん…のところ…んmんn…」

 熱い吐息を耳元に受け、両方の胸にはニップルに的確な刺激を受けている桃子。思信の仕草は、相手を確実に追い詰めていた。

 「…それでどれくらいなの?…」

「…ええ?…」

 そして桃子への愛撫をぱたりと止めた思信。思わず、ご褒美を目の前で取り上げられた当惑の目線を送る桃子だった…。

 「…何だかんだで、両方合わせて50万円くらいになるんじゃないかな?…」

 予算の見通しを言った桃子。それに対する思信の姿勢は、途端にシビアなものになる。そりゃ自分たちのお金が絡めば、それも一方的な出費なのだとしたら、少しは顔つきが変わるのも当然だった。そもそも隊内のこの手の親睦用交際費としてプールしている\…俗に言う裏金…のうち、桃子たちバルゴ06のクルーは、その積み立てにあまり頓着してこなかった。だから出もしない隊内の数々の出席行事やら…身内のクルーだけで、ほとんど毎晩、親睦を深めているせいだが…、上級幹部の異動への餞別やら、彼女たちだけで独自にプールしているわけではないから、独自に残高は無い。そもそも隊内では、彼女たちは未だに異端視されている存在なので、他の連中のように請求書を水増しして刷るとかの古典的な手法ではなく、桃子を窓口にして杓子定規に、サラリーから自腹で払い込んだ金は、隊内では裏の公金として処理されることになるが、その真っ先に矢面に立つのが、バルゴ06クルーのお金がほとんどである…。

 「…え、そんなに掛かるの?…」

「…ええ。みんな集めれば、当然、それくらいになるわ…香典貧乏になるよりはマシだけど…」

 言って初めてその金額に仰天した思信に、経理責任者である桃子は、何をかいわんやの表情で平然と言ってみせた…。

 「…まぁ何時か取り戻せってことでしょう…ところでさ、確か妊娠してるのって、春菜せんせぇの奥さんでしょ?…姫咲織絵ちゃんって初産?…」

「…いいえ、織絵さんはもう3回目よ?…」

「…え?…でももう子供は3人いるでしょ…」

「…織絵さんは2回出産しているし、藤森先生は1回出産しているもの…」

「…そうだったかしら?…」

「…そうよ…」

 自分の記憶データを桃子にあっさりと否定された思信。海上自衛軍に医務官として所属する藤森春菜は、パートナーである姫咲織絵との性生活において、己の征服欲を満たすために、男性器を模った人造ペニスを股間に移植し、見かけだけは”…ふたなり…”になった。この人造ペニスには、血液が通い、排泄の機能も、性的な興奮による発露も可能だが、あくまで女性のクロスポイントである陰核を増強する形で、移植されている。精嚢なども無いし、射精などの機能も無い。以前の通り卵子細胞や子宮系は残っているので、藤森自体も妊娠・出産ができた…。

 「…それでよいづきの艦長さんと、副長さんのカップルは?…」

「…名取副長が初産よ…」

 桃子に言われて思信は、頭を指先で擽った…記憶が混乱しているようだ…。

 「…こうも知り合いのベビーラッシュが続くと、こんがらがって来ちゃう…」

「…ほんとね…」

 思信は桃子に正直な本音を見せると、桃子も素直に同意してみせる。2人の知り合いは、決まって女同士の婦々生活を営んでいる。彼女たちに自然の成り行きでの生殖など不可能だった。後は人工的な受胎カプセルによる生殖ということになるわけだが、それが何だか一つのムーブメントになっている気がして、処女懐胎・女児出産という、”…百合…“の花に形容される同性愛方程式の小さなベビーラッシュに繋がっていた…それも以前は不可能だった女性同性愛者同士の単為生殖が、近年になって実行可能になったことが大きく作用しているのは間違いないのだろう…。

 「…ねぇ、桃子ォ…他所様のことより…」

「…ギクリ!…」

 思信の声音のトーンが明らかに甘えモードに変化する。背後から抱き付かれた桃子に、そんな彼女の流し眼の模様は映らないが、その様はありありと想像出来た。

 「…いい加減、あたしたちもみんなからの出産祝いでぼろ儲けしたいよね…」

「……」

「…赤ちゃん作ろうよ?…」

「…@+×△÷!%…」

 強請るような思信の言葉…この台詞に思わず桃子の心理は、ぞわぞわしてしまう。この次を展開させる言葉が頭の中で用意できていない…。

 「…あたしが桃子の赤ちゃん産んでもあげても良いんだよ?…」

 思信は自分の妥協案を桃子に言うが、一方この話を常日頃聞かされている桃子の耳には、何時にも増して嫌らしく響いていた…そうではないのだ。

 「…子供を産んであげたいの…みんなの赤ちゃん…」

「……」

 思信が懇願するように呟くのを聞くにつけ、桃子は決まってやるせない思いに囚われる…率先して産んであげたい。いや、みんなの赤ちゃんを産んでやりたいという思いは、居ア血ほど良く判る…だが…。

 “…思信はみんなのお姫様じゃなきゃいけない…処女の象徴であるみんなのお姫様は、誰かの子供だけを産んじゃ駄目なのよ…みんなの子供を産むなんて無理なのだから…だから独りシンボリックなヒロインである必要がある…そしてその孤独なシンデレラをわたしが影で支えてあげたいの…”

 その桃子の強烈な思いは、彼女に対して口にしたことは無い。その頑なな桃子の決意は、思信の女としての母性を決定的に否定するものだからだ。その代わりに思信の子供は、桃子自身が産むのだ。その硬い決意は変わらない…しかし自分が思信の子供を産むのに、相応しい心持になっているかといえば、それは否だった。自分が彼女に相応しいと思えなければ、気持ち良く妊婦になって、マタニティライフを送ることなど出来ない…しかしこれはあくまで桃子自身の内心の問題で、思信には関係の無い話なのだが、彼女の望むことを拒み続ける理由にもなっている…そもそも影から思信を支えるなんて桃子の独善なのかもしれない。その独善に酔いたいナルシストなのかも?…なんて下卑たやっかみも自分の中に渦巻いている桃子だった。

 “…あなたが好き…”

 桃子は思信に想いを寄せていることに気づいて、ようやく思信からのアプローチを受け入れて、2人は肉体を重ね合わせた。そうすることで、桃子は自分の胸の中に覆い被さる殻の打破を期待していた…しかし一皮剥けるどころか、時間が経過するとともに、桃子はその淡い期待とは裏腹に、その殻が肥大し重くなっている気がしていた…思信が何時も自分に投げかけてくれる台詞が、その神経症な桃子の心を暗澹にさせていたのかもしれない…。

 ”…ちょっとした瞬間の可愛い桃子…そんなはにかむ表情のあなたが大好き…”

 それは思信の桃子への素直な感想だった…

 “…あたしってそんなに可愛いかな?…”

 桃子はふとそう思う…

 “…何時もその顔が見れたらいいのにな…”

 それは思信の桃子へのささやかな願望だった…

 “…そうするには、一体どうしたらいいの?…”

 桃子は当然そう思う…

 “…肩肘張らずに、リラックスしてみて…ありのままの桃子でいて欲しいの…” 

それは思信の桃子への小さなアドバイスだった…。 

“…貴方の言葉をストレスに感じること自体…私は貴方に相応しくないのかもしれない…”

 桃子はそう不安に思う…それらの思信の言葉が、桃子の中に蓄積されて行き、彼女の巷に溢れる”妊娠”という事象で、桃子自身が子宮を持つという女性性の大きさがより拡大解釈されて、”…早く思信との娘を妊娠したい…”という桃子の気持ちを”…早く妊娠しなければ…”という強迫観念に変貌させ、思信への一途な貞操を護ることに固執することで、一皮剥けない自分を正当化する決め台詞にするとともに、自分以外の他者とも交わる思信への嫉妬を折り重ねる中で、押し潰されそうなほどになっていたのかもしれない…その点で桃子は頑なだった…そんな自分を思信は、ただ見守ってくれている。飽きて一方的に捨てられても不思議ではないと思うのに…どうしてそうしてくれないのだろう?…いっそのことそうしてもらえれば、簡単に諦めが尽くだろうし、所詮は思信も…という結論に到達して、桃子も安心できるのだ。要するに桃子は自分と思信とをどうしても器量の上で比較してしまうのだ。

 「…ピピッツ!!、ピピッツ!!…」

 そんな時、キャビンに電子音が鳴り響く。桃子と思信の2人の会話を遮るには、ちょうど良いノイズだった。その発生源はNav-comステーション(航法通信士)のコンソールからのものだった。しかし担当であるはずの吉岡柴2等海曹の姿は無かった…用便を足すために奥のレストルーム・エリアにでも引っ込んだのだろうか?…そう云えば、センサーオペレーターである諏訪部麒麟2等海尉の姿も見えない…吉岡柴はこの諏訪部麒麟の”お手付き”でもある…2人して連れ立ったのだろうか?…というか、桃子の座る戦術担当士官のコンソール以外に、キャビン内に4つある通信航法、電子センサー、音響センサー、武器の各担当者が何れもその場に居ないのだ…。

 「…バルゴ06聞こえるか?…速やかに応答せよ…」

 それは司令部からの通常回線での呼び出しだった…先ほどまで吉岡柴が交信に用いていた秘匿回線とは違う普通の無線だった…。

 「…こちらバルゴ06です…HQコマンド(Head Quauter Comand)どうぞ…」

 仕方なく応答に対応するのは、この場の責任者である飯田思信だった。というより、近くに自由に立って歩けるポジションに一番に適合していたのが彼女だっただけだ。

 「…これより貴機には、これまでの定時哨戒ミッションは破棄し、新しいミッションに就いて頂きたい。新しいミッション・プランニングは、こちらより暗号化通信でそちらに送信中である。本通信終了後、そのデータを参照されたい…以上だ…」

「…バルゴ(処女宮)06了解…」

 思信は事務的な応対で司令部との通信を終えた。当時、思信たちのバルゴ06は、ペルシア湾の哨戒監視飛行任務に就いていたのだが、彼女たちが所属する海上自衛軍第3哨戒航空隊からは、イラクには12機のP-21が派遣されていたので、それぞれの機体に黄道12宮の名前が冠されていた。その6番目のお宮さまが、内藤桃子たちが乗るこの処女宮なわけだ…まぁ要するにイラク派遣航空隊にローテーション配備されている6番機のクルーチームなのである。

 「…どれどれ…」

 早速、送られてきたデータファイルを吉岡柴のコンソールから転送させて、自分の前面にあるコンソールのスクリーン画面上に展開させていたのは桃子だった。手元にあるサブスクリーンの画面に直接手を押し当てる桃子。画面には画素ごとに微細な光センサーが鏤められている。自発光画素からの参照光の照り返しから押し付けられた物体の画像パターンを認識する。そうして自分の掌紋を読み取らせているのだ。司令部から伝送されてきたミッション・データの開封には、この場では戦術担当士官である桃子、あるいは機長である思信の生体クリアランスが必要だった。読み取りが終わって、画面をティッシュで拭う桃子。ちなみに手が直接接触することで画面に付着する汗や皮脂などの汚れは、表面を光触媒でコーティングすることでカバーしているが、付着した汚れは直ぐに分解されるものでもないので、やはりマメな拭き掃除は欠かせない。



[license check confirmed]

“…ライセンス照合確認…”

[data files decoding now]

“…データファイル解凍中…”

[please wait]

“…お待ち下さい…”

 

スクリーン上に浮かんだ文字とシンプルなステータスタイムバー。こう云うのは抜け目無いというか桃子の対応は素早い気がした…そしてその成り行きを背後から覗き込むのは思信だった…。既に桃子はシングルタイプのフルカラー式HMDのアイピースを、利き眼である右目に掲げて、コンソールスクリーンのデータと照合させている。その眼球を素早く移動させるチラ見の連続は、桃子の戦術担当士官としての仕事のスタイルだ…そして瞬間、瞬間の映像を彼女は脳内で再合成して、一つの画像に再構成しているのだ。コンピューターでレーダーやレントゲンの画像を蓄積・再合成する手法と一緒だ…シースルー式のELデバイスを使用しているのだが…幾らレズの集団といっても、彼女たちもP-21Aのクルーとしてそうするように一様に軍事訓練を課されている…その程度の所業は、他の一般隊員と同等以上のスキルを身に着けていた…。

 「…ウンムカスル?…」

 思信が画面を覗き込んでその文字に反応した。桃子の頭越しに見える彼女の一纏めにしたボリュームのあるヘア…その纏まりから零れた髪の繊維の一本一本が光のスリットになって、画面からの光に滲んだような虹が見えた…この瞬間の凛々しい彼女の姿も、思信には抱締めたくなる愛しい存在だ。でもその衝動は我慢、我慢…お仕事の最中だ…公私は弁えなければ…。

 「…上空からの偵察だってさ…」

「…へぇ…」

 周辺のエリアマップが呼び出されていた。今の現在位置が拡大され、飛行コースが指定されて、そして目的地上空であるウンムカスルがクローズアップされる。途中で航空自衛軍のKC-767Jから空中給油を受けるように指示があった。当面は隣国のクウェート上空とウンムカスル上空を、国境を跨ぐようにして周回しながら、偵察を行うことになる。

 「…任務追加ですか?…」

 そう云って桃子と思信の2人の輪に加わったのは、前方のコックピットからやってきた副操縦士の燕城寺麻弥2等海尉だった。機体の操縦は、オートパイロットに任せてある…。

 「…ええ、残業になってしまうわね…」

「…残燃料、残り33%です…基地への帰投分しかありませんけど…」

 翻って麻弥は、機長である思信に自分のコムツールの画面を指し出して見せた。画面には機体ステータスのモードが呼び出されていた…。

 「…それについては、空自さんの給油機から燃料補給を受けろとあるから…」

「…そうですかぁ…」

 指を銜えるようにして少々、残念がる麻弥。基地に帰って、宿舎での…スキンシップ…は、もう少しお預けのようだ…。

 「…あのぉ内藤1尉…」

「…なに燕城寺2尉?、藪から棒に…」

「…先ほどの思信さまとのお話ですけれど…」

 聊か気難しい表情を見せている桃子に、恐る恐る声を掛ける麻弥…今度はその次に紡がれることになる言葉に、桃子が恐怖する番だった…思信とのやり取りを聞かれていたのか?…。

 「…そんなに妊娠するのがお嫌でしたら…」

「…?…」

 一呼吸置いた麻弥の口ぶりがアグレッシブな皮肉めいたものに変化する…。

 「…じゃぁ、一番先にあたしが思信さまの赤ちゃんを産んじゃおうかな?…」

 麻弥が言った。それに桃子の顔が、一瞬、硬直する…。

 「…みんな内藤さんに遠慮してるのよ?…こんな若い身空の子宮を空き部屋にしとくなんて、宝の持ち腐れじゃない?…ひいては少子化大国の国有財産の空費に他ならないのよ?…」

「…国有財産?…ってあたしたちの子宮が?…」

 少々、憤ったような口調を麻弥に投げかける桃子。確かに自分は、国民と国家を護ると誓って軍人になり、自衛軍に雇われた公務員であり、給料は日本国政府の国家予算から支給されているし、この国有財産である航空機を使用しているが、自らの意思をして、自分を国有財産の一部とまで言えるほど、私は身を窶してはいない…桃子のプライドはそう叫んでいた。

「…明日の日本国・日本民族繁栄のために、少しでも人口減少に歯止めを掛けるべく、この子宮を使わなくてはならないのだわ!!、うん!!。あたしたちが軍人である以前に、女としてこの国民国家へ最大の貢献策は、母親になること!、ずばり繁殖行為なのよ!!…」

澄ましたように涼しい顔で云う燕城寺麻弥。ぽんと狸か相撲力士のように腹鼓を打つようにして口走った後半の台詞は、聊か胡散臭い、取って付けた感じがするが、繁殖適齢期の只中にある自分たちには、子宮を持て余す理由など何も無い。思信と自らの子供を子宮に宿し、産み落とすことは明らかに思信との一体化を図る上での大きなシンボリック・ステータスなのである。後半口にした産めや、増やせやの社会主義の極致みたいなスローガン地味た台詞は、あくまで二の次の話だ。例え子供を産んで、育児放棄したとしても、介護やセキュリティ向けに家庭に普及し始めているヒューマノイド・ロボットが親に成り代わって面倒を見てくれる…ただし新生児の教育係になれるほどに、ロボットはそこまでの知能は獲得していないが、知能の向上は日進月歩である…頼りなくても幼いころから生活環境に家電機器の一部として空間にロボットが入り込んでいる。これからこの世に生まれるであろう、彼女の子供たちは、生みの親は人間だが、育ての親はロボットを介したコンピューターである…そんな時代が到来していた最初の世代なのだった。

「…繁殖行為って言ったって…あたしたちは女  同士だから…」

「…ここのみんなは、全員レズだからこそ、計画的に子作りも出来るし、思信さまとの子供をみんなで産んで、本当の家族になれるんでしょ?…」

そう言い切った燕城寺…桃子や思信、当の燕城寺も違うけれど、他のクルーは多かれ少なかれ、その出身の家庭で私生児であるなど、冷遇された悲しい立場の出自だ。それがこの自衛軍に身を寄せたことで、そこに自分の居場所をそれぞれが見出すことができていたのである…。

「…子供を作るのは好い。産むのも好い…産んだ子供を育てるのに、育児休暇を取るのは好いけれど、それをみんな一斉にとろうなんて思ってるんじゃないでしょうね?…」

「…それは産んでみてからのお楽しみ。みんなで妊娠して、みんなで出産して、みんなで育休(育児休暇)を取れば怖くないわ!!…」

「…祖国防衛のお仕事はどうなるのよ?…」

「…あら?、未来の日本民族を存続させるために、私たちの子宮を使うことも、祖国防衛に尽くすことになるんじゃないのかしら?…それこそ男性兵士にはできないことでしょ?(←この燕城寺の台詞なんだけど、少々妊娠治療の技術を過小評価しているようだ。”子宮外妊娠”って言葉もあるように、受精卵が子宮以外に着床しないと妊娠しないという謂れは無い。男性の腹腔内に胚を移植し、妊婦と同じホルモンを投与してやれば、少なくとも妊娠状態は、理屈上は維持できる。ただし出産時に胎盤が自然に剥がれやすい子宮と違って、腹腔の様々な臓器に着床して胎盤が形成されると癒着が進行して剥がれにくくなる。これに伴う出血の危険性が親と子の生命のリスクと繋がるわけである。まぁこのリスク管理がうまく行かないから、レズビアン同士で子供が作れるこの時代でも男性の妊娠という行為自体は、中々浸透していないのだろう。)…」

「…むっ!!…」

燕城寺の強い意気に閉口してしまう桃子だった。先程の桃子と思信のささやかな濡場を経験していた姫百合が、いい加減で口を噤み、何時の間にかその筋から潤みも引いてしまっていた。思信と自分の遺伝子を引き継ぐ娘を残すことは、傍目から見れば、女同士のハーレム状態なのだが、これは男性性を排した女性優越主義の極致か、少女革命・処女セクト・百合原理主義等などの言葉尻を組み合わせた罵詈雑言が彼女たちの周辺で考え出されていた…。

「…女同士の子作りも好いけど、今は特別国家公務員としてのお仕事の方が優先でしょ?…」

「…だったら他のみんなは?…」

 ちょうど耳の痛い子ネタの話を切り上げる…はぐらかすようにネタがあることに気づいた桃子。バルコ06のミッション指揮官である立場もあってか、その物言いは些か頭ごなしに聞こえたかもしれない。何より散々にやり込められていた鬱憤もあったから、そのトーンは少なからず高圧であったはずだ…それに対する燕城寺の憮然とした表情は、思信の想いを重く複雑な思いにしていた…。

「…ほんとにみんなどうしちゃったのかしら?…」

 そんな何所吹く風に他人ごとに他のクルーを思いやる思信だったが、さてP-21A”バルゴ06”のクルーは全部で9名。機長である飯田思信1等海尉、副操縦士である燕城寺麻弥2等海尉、戦術作戦担当士官の内藤桃子1等海尉、センサーオペレーター担当士官の諏訪部麒麟2等海尉、航法通信担当の吉岡柴2等海曹、音響センサー担当士官の隼砥教子1等海尉、武器担当の佃島鳩子3等海尉、武器員の笠置秋2等海曹と、笠置紀2等海曹の双子姉妹の構成となっていた。今、思信・桃子・燕城寺の3人がいるのは、機内のオペレーションコンソールが集中する中央コンパートメントと、さらに前方にあるコックピットは、現在は自動操縦に切り替わっていたため、運用規則違反だが無人だった。後部コンパートメントは、ソノブイなどを投下するランチャーの装填部、簡易トイレとキッチンを含むギャレイがある。

「…ということは、みんな後ろにいるんだよね?…」

「…パラシュートで脱出してなければね…」

「…まーやは、コックピットに詰めてて…」

「…了解です…ミッションコース変更に備えます…」

 云うと、燕城寺はコックピットに、桃子と思信の2人は後ろに向かった。

 

(続く)
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  1. 2007/01/01(月) 21:58:45|
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